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後悔処刑44

 その出で立ちを見てディーは思った。
 怖い――と。
 常軌を逸した、タガの外れた、純然たる狂気のようなものを浴びせかけられて、血にまみれた死臭を漂わせるようなサーベルを目にして、自らの死を暗示させられるようで、それを怖いと思った。
 マシロは――といえば、怖いとは思わなかった。
 見て思ったことは、滑稽だという嘲笑にも似たものだった。
 あれだけドアを蹴りつけ、汗だくになりながら、それでも蹴破ることができずに諦めたのが彼だ。
 目の前の狂人ぶった男だ。
 その実は何のことはない、ただの子供じゃないか。
 マシロはその男の性格を的確に見抜いていた。
 震えるディーの手を一度強く握り絞め、大丈夫だと彼女に伝えるとその手を放した。
 ハッとした顔を上げるディーはとっさにマシロの服を掴もうとしたが叶わなかった。
 マシロが既に前に、男の元へと向かってしまったから。
 追い駆けたいのに、引き留めたいのに、怯え竦んでしまった四肢に力が入らない。
 病にも似た何かに臥せっていた自分には、どれだけ粘つく汗を浮かべ不快感を覚える羽目になっても、思い通りに動かすことができず、前のめりになる身体を衝き出した腕で支えるので精いっぱいだった。
「マシロッ――!!」
 声を掛けた時男の――ラファイトスの表情に変化が現れた。
 ラファイトスは唇を吊り上げたのだ。
 まるで面白いことでも思いついたかのように。
 その笑みの理由をマシロは致命的に理解することに至らなかった。
 無造作に振り上げられたサーベル。
 ああ、そうだ。
 そのまま振り下ろすんだ。
 僕目掛けて。
 マシロはまるで凶刃を受け入れるかのように手を広げた。
 何のことはない。
 彼にしてみれば、それは行動で示した己の覚悟だ。
 ディーには指一本触れさせないという、意思を体現したものだ。
 ラファイトスはそれを見ると、
「くはっ――」
 歓喜の声を上げ――、瞳までも細い三日月のように弧を刻ませ、
「おあつらえ向きすぎるだろっ!!」
 その刃を力任せに振り向いた。
 刃が皮膚を突き破り、筋繊維を断裂していく感触、骨を砕く衝撃、駆け抜けていく火で焼かれたような激痛。
 覚悟はあった。
 地獄の痛みに対する。
 無かったのは――、
「――へ……?」
 そんな痛みでさえ忘れさせるほどに、頭の中が空白になっているマシロに足りなかった覚悟は、致命的な思い違いは、性格を見抜いていても見落としてしまった肝とは――、
「かっこいいねぇ、お前ぇ~」
 間の抜けた声を上げるマシロを嘲笑う声にわずかに反応し視線を向けるマシロだったが、向けた時と同様感情を思わせない――のろのろとした動きで、自らの血が流れ出している――、斬られた部位を――、斬られ残された部分を見つめていた。
「――うそ……」
 嘘じゃないよ――そう教えてくれるのは、
「僕の――腕――ちがう――」
 残された二の腕。
「そん――ちが――、腕――なんで……」
 ずきん――。
「腕、うで――、僕のっ!僕のぉ~っ腕――がああぁあああああああぁぁぁあぁぁぁあああああっ」
 残された部分を抱きしめるように、激痛を忘れさせるように、天を上げてマシロは絶叫した。
「くはっ、クハハハハハハハハっ!お前ホントおもしろいなっ!!なんでそう、俺のやりたいようにやらせてくれて、見たいものを見せてくれるわけ?ホント面白いなっ!!」
 哄笑を上げながらラファイトスはサーベルを見た。
「ん――?」
 痛みに喚くマシロの声よりも、今はそちらの方に関心があった。
 サーベルは半ばから折れてしまっていた。
「――ちっ」
 舌打ちを打ち、いら立ちを紛らわせるようにマシロの襟を掴むと、その顔を自らに引き寄せ鼻息を浴びせようとするかのような距離で彼の目を覗きこむ。
 覚悟を砕かれたマシロはもうその目から視線を外すことはできなかった。
 逃れたくても逃れられない。
 蛇に睨まれた蛙よろしく、意思と反して身動きがとれない。
 マシロは性格を見抜いていた。
 けれどもそれは、ラファイトスという人間のものばかりで、彼の手にしたモノの本質を失念していた。
 モノ――サーベルの本質は、人を斬り殺すことではなく――、もっと原始的に斬るものだということを。
「なあ、勇ましいナイトくんさぁ~。
 ほんと、ちょーかっこいいよ、お前。
 んで、そんなお前にご褒美やるからさ、嬉しいだろ?」
 マシロは致命的に気付けずにいた。
 ラファイトスが浮かべた笑みの訳を。
「あの女――今から俺がもらうから」
「――へ――な、なに――げぅっ」
 「今から俺がもらう」その言葉でようやく理解したとき――、マシロはラファイトスが手にした折れたサーベルの柄ごと拳を鳩尾に叩きこまれていた。
「なあ、見てろよ?お前の大切な人が犯されるところをさぁ」
 彼の喜悦で歪んだ笑みのその理由。
 彼の父から受け継いだ好色家たるラファイトスが、己の食指を揺り起こすほどの獲物を見定めたがゆえに浮かべた笑みだったということを。
 目の前に立ちふさがるマシロではなく、彼を殺すという衝動を上塗りしてしまうまでに滾った彼の欲情の表れだったということを。
 このままほおっておけば、もちろんマシロは死ぬかもしれない。
 だが、そんなことはラファイトスにとってはどうでもいい。
 みっともなく、惨めに、悔しさに濡れて、喚き散らす声をBGMに、ありのままを見せつけてやるというシチュエーションこそを、昏く悍ましい彼の欲望が求めたのだ。
「ディー様っ!逃げ――でッ――」
「おいおい、余計なこと言ってんなよ。逃げられたら困るじゃんよ?
 つかなに?お前女の子と『様』付で呼んでんの?ホントみっともねぇ野郎だなぁ~
 まあ、だから?
 今こうして?
 這いつくばることしかできねぇンだろうけどよぉ~
 俺みたいな強者からおいしいところを全部持ってかれるんだけどよぉ~」
 今度は顎に柄を叩きこまれ、マシロの意識が一瞬飛びかける。
 頭の中で繰り返す言葉は。
 死ななきゃ――、死なないと――。
 僕のせいだから――。
 世界の秩序の軋む音。
 もうろうとするマシロの耳に、その音は届かなかった。
「――うぐぅっ!」
 代わりに聞こえてきたのは、一人わずかに離れたところにいるディーのうめき声。
 早く死ななきゃ、僕が死ななきゃ、僕がやらなきゃ。
 かすれる視界の中できらりと何かが輝いて見えた。
 焦点が定まらない中早く早くと焦りの声を頭の中で鳴らしながらついに像を結んだそれは、サーベルの鋭利な先端部分だった。
 理解してからは、マシロは残された体力を気力を爆発させるようにして、突如その折れたサーベルを残された右腕で掴んだ。
 皮膚を破り、肉に食い込むが、もはや構いはしない。
 自身で行うことをあれほど忌避していたが、もはやそれどころではない――。
 掴んだ勢いのままに引き寄せると、その切っ先を自らの喉目掛けて突き立て――、
「マシロっ!止めてぇっ!!」
「何やってんだてめぇええっ!!」
 ようとして、それまで突然のことに反応することができなかったラファイトスが、ようやくマシロの意図を察してその小さな体を蹴り飛ばした。
 マシロに死なれるということは、彼のセッティングを台無しにされることに他ならない。
 観客たるマシロがいてこそ、彼の舞台は整うというものだ。
 思惑に大きな隔たりがあれど、マシロが自死せずに済んだことにディーは相手がラファイトスであることも忘れて、安堵した。
 ――が、
「ざっけんな、てめぇっ!なに考えてやがるっ!なんだお前、自分が情けなさ過ぎて、お前のお姫様が犯されるのを見たくなくて、死のうってそういうことなのかっ?!バカなのかっ?!」
 ラファイトスが罵詈雑言を吐き出しながら、マシロを蹴りつけるのを見て、その胸に熱が灯る思いだった。
 なぜでしょうね――。
 目の前でマシロが死ぬ姿を見てきたはずなのに、今はそれが一番恐ろしいと感じてしまうのは――。
 動かなかったはずの四肢に力が入る。
 マシロは座り込んだ姿勢のままだったが、上体を起こし、その右手を差し出して、玉音を奏で始めた。
「シフララディ」
 それだけで己の中の体力がごっそりと持って行かれてしまう。
 突如始まったその調べに、マシロもラファイトスも気が付いた。
 マシロは驚愕の表情を浮かべて。
 ラファイトスは訝しげに。
「インシスルァフ」
 ディーの内側で何かがひしゃげて潰れていくような苦痛に見舞われたが、ディーはそれらを無視して、いささかも乱すことなく唱和を続ける。
「だっ、だめですっ!!ディー様ぁっ!!!」
「エイヒィリグ」
 今度は特に何も起こらなかった。
 少なくともディー本人にしてみれば。
 もしかしたら、何かを感じる大事な部分が壊れてしまったのかもしれない。
 残りあと1フレーズ。
 マシロの声も届かず、彼女は詠唱を――、
「ベンディッサディーっ!!?」
 止めてしまった。

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