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極小の中にあふれる無限2

「トラウマ――……、トラウマといいましたか?」
 フルーリーは腑に落ちないといった表情を浮かべているのを見て、少年は苦笑を浮かべる。
「トラウマといいましたら――その、心的外傷ですよね?
 ようするに、心の傷といいますか」
 念を押して確認するフルーリーを変わらぬ苦笑をもって、まあまあと手を上下に振りながら少年は、「言葉足らずでしたね」と間を取って、あらためて自分のことを話し始めた。
「僕は――、あの日までの僕です」
「あの日――」
 フルーリーにその日がどの日なのかは当然にして判断のしようがなく、少年がいう「あの日」について語ってくれることを期待して彼の言葉をそのまま口にしたが、その本人はその言葉に触れるつもりがないのか、話し続けた。
「もちろん、今の僕は『僕』の記憶もありますし、そのころに培った感性もしっかり根付いてはいます。――いますけれど、僕は『僕』をここに閉じ込めたんです」
「閉じ――こめた……」
 抽象的な表現にしか聞こえない。聞こえないが、それがこうして今目の前にいる彼の真実でもあるのだろう。フルーリーは少しでも彼の言葉を理解しようと、必死に想像力を働かせる。
「僕にとって『僕』は、守らなければならないものだったのでしょう。
 だから僕は、『僕』を閉じ込めた。誰にも触れられないように。誰にも悟られないように」
「――あなたは、あなた自身の心……ということなのですか?」
 ここまでの話からフルーリーに推察できる、精一杯の回答がそれだった。
 トラウマそのものだという彼、『あの日』に何かあったらしいこと、彼はそれを守っているということ。
「――心……」
 少年は口をへの字にし、眉根を寄せて、真剣に考えているようだ。少年にしてみれば、その表現が腑に落ちない。
「あの――唐突ですけれど、あなたはあなたの心ですか?」
 長いこと一人でいる少年は、フルーリーにそう尋ねた。
「――ほんとうに唐突ですわね……。心というものの定義をどうとらえるかによるのでしょうけれど、心は私の一部であって、私自身ではない――というのが、私の考えですね」
 すると少年はほっと息をついて、にへらと笑った。
「そうですよね。よかった――。僕も同じですから」
「同じ――」
「僕にも心があるってことです」
「…………」
「僕にも心があるのに、僕が僕の心なのかと尋ねられると、さすがに――なんていうか、不完全な僕――とでもいいましょうか、そんな印象を受けたものでして。
 シュタル王女殿下はどのように聞こえましたか?」
 手痛いところを突かれた――そんなバツの悪そうな表情で、フルーリーはその問いかけに答えた。
「私も――そのようなところですわね」
 正直気持ちのいいものではなかった。
 自分という存在が急に希薄になったようで。それはまるで、自分が魂だけの存在にでもなってしまったかのような、地に足がつかない不安定さを覚えて。
「僕はあくまでも僕個人としてここにいるんです」
「ようするに、あなたがいう『あの日』のあなたのままに?」
「ええ」
「――――――」
 そろそろまともに考え続けるのをやめたほうがいいのかもしれない。
 フルーリーの中に選択肢の一つとして浮かび上がってくる。
「僕はあの日までの僕を、誰にも傷つけさせないように、あの日のままにここに閉じ込めたんです」
「――――なるほど」
 それ以外にどう答えたらいいのか、フルーリーにはわからなかった。
「保管した――と言い換えたほうがいいのかもしれません」
 保管という表現は、どこかしっくりくるようにフルーリーにも感じられた。
 ただし、そうなるとやはり、「人」としての意識が希薄になるのも否めなかった。
「今の僕は、僕を人に触れさせたくない。
 触れさせたくないから、僕に触れようとする人を過剰に攻撃しようとするし、攻撃することもあります。
 ――これって、トラウマですよね?」
 少年のいうことを聞いて、なるほどと、たしかにと、フルーリーはうなずいた。
 確かに、そういわれればトラウマに対峙した人の反応として説明も付く。
「ではなぜ――、私はここにいるのでしょう?」
 そう。
 誰にも触れさせないためにここに過去の自分を閉じ込めたのだとしたら、そんな「自分」に彼はフルーリーを引き合わせたことになる。
「それはおそらく――、贖罪のつもりなんだと思います」
「――贖罪」
 罪を贖う。なぜ?
「自分と同じような身の上にしてしまったことを、僕は悔いているのです」
「――――――」
「だから、僕はシュタル王女殿下をここにお招きした――。一番弱い僕と引き合わせた――、もしくは引き合ってしまった。
 僕自身が一方的に感じたのかもしれません。あなたに対して、シンパシーのようなものを」
「――どうにも、その……難しくて」
「いやぁ、僕がもっと上手に説明することができればよかったのですけれど」
 照れたように笑う彼の白すぎる肌に、すぐに朱の色が混じる。なんとも純粋で、素直な少年ですわねとフルーリーは率直に感じていた。
 少なくともこの少年の成長彼が、いったい今どのような人物なのかはわからないが、それでも少しは信用してもいいのかもしれないと思えるくらいには。
「そういえば――」
「あ、そろそろですよ?」
 フルーリーが尋ねようとしたタイミングと、少年がこの会合の終了を告げるのとは、ほとんど同時だった。
「どうやら目的地に着いたみたいです」
「目的地――ですか?」
「ええ、あなたを匿うための」
「…………」
 匿われなくてはいけない状況なのかと思うと、フルーリーは待ち構えているだろう重い現実に、自然と口をつぐまされた。
「状況は、また改めて外で確認してください。僕も僕自身のことなのに、情けない限りですが、すべてのことを理解できているわけではないんです。断片的と言いますか、僕が強く思ったことが届くのがせいぜいといったところでして」
「なるほど――そう、ですわね」
 すると少年は急に上目遣いでフルーリーをうかがうように見ると、急にもじもじとしだした。
「なにか、私にいいたいことが?」
 フルーリーが彼に水を向けると、またもや照れた笑みを浮かべて、顔を赤くしながら――、それでいて心の中ではそのことにほっとして、少年はお願いをした。
「――その、いろいろと問題はあるとおもうんですけれど……、僕自身と仲良くしてあげてください――なんて、僕が言うのも変な話なんですけれど」
 その願いはフルーリーにも正確に理解することができた。
 だから彼女は、彼の真っ白な髪を撫で梳きながら、微笑んだ。
「もちろんですわ」

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