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極小の中にあふれる無限8

「ファンベルン准将ッ!」
 四十がらみの部下に呼びかけられた青年――将官であるファンベルン=グレイボワールは無駄のない挙動で瞬時に振り返った。
 時は少し遡る。
 ここは今まさに賊を退けたシュタル城であり、この国における指揮命令系統の最上位であるシュタル王から軍へと直接の指示が下されぬ中、軍部主導で被害状況の確認を行っている真っ最中である。
 その中にはもちろん、王族の安否確認も含まれていたのだが――。
「何事か」
 ファンベルンは静かに問いかけた。
 ただ見ただけでは痩せ気味に見える身体であるが、その実練りこめ、捏ね上げ、編み上げたような筋肉の持ち主であることを、四十三の少尉はよく知っていた。
「――~~くっ……」
 しかし、返答は噛み殺した嗚咽であった。
 不器用な軍人を現したような少尉は、引き締まったこわもての顔を真っ赤に染め上げ、血走った目を見開き、歯を砕かん限りに顎をかみしめていることが、はたからもよくわかる。
「――そうか……、王が――逝かれたのだな?」
 その問いかけは少尉の報告したかった内容と違わず、わずかに、――けれども確かに彼は一つうなずいた。勤めを果たせたことに違いなく、少尉のわずかな気のゆるみは、彼の嗚咽へと変わっていく。
「シュタル王が――……」
 清潔感を思わせる金の髪を掻き上げ、その途中で手を止めたまま、ファンベルンはわずかな間だが天を仰ぎ、その双眸を閉じた。
 はたから見る分には、幾分か雑にも映るが、それは天へと還ったシュタル王へ、黙祷をささげているようにも見えただろう。
 しかしそうではなかった。
――姫……――
 彼の胸中は不安であふれかえっていた。
 あふれかえる不安で胸が破裂してしまいそうだった。
 だが、それを表情にはおくびにも出さない。
 とはいえ、いざシュタル王が斃れたという報を受けてしまえば、より一層その不安が募る。
 近衛としては間違いを犯したという自覚はある。
 しかし、近衛の長として王自ら、娘を頼むと言付かったことも覚えている。
 いや、それはただの言い訳じみた自己弁護――、自己の正当性を主張するための方便であることを、彼は自覚していた。すべて事実ではあるのだが、彼自身がそう感じている。
 ファンベルンがフルーリーズン姫を第一優先に救いたかったのだ。
 だが、それが叶わなかったことは、適わなかったことは、彼自身が一番理解している。
 あの時出くわした黒ずくめの男を突破できなかった自分が、ようやく姫の自室へと辿り着いた時には、そこには誰もいなかったからだ。
 できることなら声を張り上げて城内を駆け回りたかったが、部下の手前それもできない。
 彼は何も特別裕福であったり、有力な家系に生まれたわけではなかった。
 偶然もあったし、その偶然を逃さないための実力も磨き続けている。
 機会を与えられても、それを果たすだけの実力がなければ、自らの命を落とすことを彼はよく理解していたから。武だけではなくそれは学門にも通じることだとも理解していたから、自身の同期の中では常に主席であり続けていた。
 そのチャンスを逃さず、つかみ取り続けてきた今が、二十にして准将という位だった。
 高嶺の花を見つめ、もっと近くで、より近くでと励み続けた十四年間の賜物だった。
 恋だのと、愛だのと、畏れ多い感情をはじめから抱いていたわけではない。
 ただ、初めて――、それも生まれたばかりの彼女を目にしたとき、彼の目にはまるでそれがおひさまのように感じられたことを、今でも思い出すことができる。
 ぬくもりを思わせるその慈愛と慈悲にあふれたような赤子に彼は強烈に憧れた。
 もっと近くで見てみたい。
 もっと近くで感じてみたい。
 そんな単純な思いが、当時少年であった彼のその後を決定付けてしまった。
 近衛の兵になりたい。
 その思いは芽吹き、たくましく育ち、立派な花を咲かせるまでになった。
 これは彼だけの秘め事ではあるが、王に「万が一の時は王女を優先に動いてくれ」との玉言を賜ったときには、あろうことか王を蜜蜂のように感じてしまった。
 離れていた花と花とを結ぶ蜜蜂。
 そこに込められている思いを、ファンベルンは正確に理解していた。
 さすが賢王シュタル王だと思いもしたが。
 ようするに王は、万が一が起きたとき、血筋を残すことこそを優先したのだと。
 そのために、自身が選ばれたのだと。
 このころには憧れが愛へと変化していたファンベルンは、さすがにその時ばかりは浮かれ、舞い上がってしまったのだろう。
 だがすぐに彼は己をいさめ、王に応じた。
「任せくださいませ。この一命に変えましても」
 そう誓った。
 何今は、その誓いを捧げた相手を失い、誓いそのものである対象を見失ってしまっている。
 だが、こうして足を止めていて何かが好転するわけでもない。
 ファンベルンはすぐに意識を切り替えて、少尉へと尋ねる。
「ガラン少尉。王女はまだ見つかっていないのだな?」
「はい」
 絶望に浸るのはあとでいくらでもできる。
 そもそも勝手に絶望に堕ちて、みすみす姫を殺してしまったとしたら、そのほうがあんまりにも滑稽ではないか。
「すでに行っていることではあると思うが、あらゆる痕跡を探せ。
 賊は一人二人ではない。
 何らかの痕跡――髪の毛一本であっても、念入りに調べろ」
「――了解であります」
 このとき、自身より年下であるファンベルンに、ガランは改めて敬服していた。
 若き准将はわずかなブレも見せず、階級差のある自分の顔を覚え、正確に引き出したうえで、冷静に指示を出したのだ。
 その立ち振る舞いに彼はこれまで以上の信頼を寄せるのであった。

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