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極小の中にあふれる無限11

 フルーリーが優しく背中を撫でられていることに気が付いたのは、まるで亡き母と抱擁を交わしているかのような錯覚にとらわれていることを、自覚したからであった。
 自覚して不思議に思う。
 なぜならフルーリーの母が亡くなってから久しい。実際に数えてみれば、十年という月日が経っている。
 十年という数字はもう一つあることを示していたし、あることが完結する期間でもあった。
 賢王と喝采を上げられたフルーリーの父であるオリエント=ポラリス=シュタルが、まさしく『賢王』と評されるようになってきたのも十年前であるし、その賢王がこの国を治めていたのも当然十年間であり、――昨日その幕を閉ざした。
 当然これらには関連性があるだろうといわれているし、それが国の内外を問わず識者たちを含めた人々の認識であった。
 妃の死。
 それを忘れるために仕事に励んだ――結果が賢王だと。
 フルーリーはどこか寝起きのように感じていた。
 いつ寝ていたのか、いつ抱きしめられたのか、ぼやけて、いろんな記憶が錯綜して、混乱しながら、現実を認識すればいいのだと、その細い顎を上げて、見上げる――まさにそのとき、強烈な後悔の念が襲ってきた。
 そこに待ち受けているだろう顔を想像して。
 その顔に怯えて。
 自らの目が意思に関係なく見開いていくのが、いやというほど自分でもわかった。それはまるで客観的に実感しているような不愉快さ。
 しれず顎が震えだし、顎関節が笑っているように歯の噛みねが合わなくなる――、
「大丈夫だ」
 そのとき、より一層、凍える人を温めようとするかのように、背中が力を込めてこすられた。
「大丈夫――、大丈夫さ」
 フルーリーの、見てはっきりとわかる瞳孔が開いたまま焦点の合わない目を覗き込みながら、スロウスは繰り返した。
「ここに今いるのはあたしだけだよ。だから、安心しな」
 落ち着いた声で辛抱強く何度も語り掛け、背中をさすり続ける。満足に声が届かなくとも、体温が――人を思う感触が、フルーリーの意識を引き戻すためには必要なのだと、よくわかっていた。
 見開いたままの目を覗き込み、観察を続けていると、彼女の瞳孔が次第に収縮と拡張を繰り返しはじめ、その焦点も時折結ばれるように動いているのがわかってきた。
「そう、そうだ。安心して戻ってくるんだ」
 そうして、さらに五分ほどの時間が経過したとき、
「――あら?……私――?」
 寝ぼけ眼といった面持ちで、フルーリーはぽつりと漏らした。
「――うむ。おはよう……といっておくかな?」
「あ――はい。おはようございます……――?――……」
 オウム返しに朝の挨拶を交わしたのち、何か違和感を覚えたようにフルーリーはぎこちない表情を見せた。
「――違いますわよね?」
 そうしてどこか自信がなさそうにしながらもスロウスに尋ねると。
「ああ。朝ではないな」
 彼女の意図を察したスロウスが答えた。
「そうではなくて、いえそれもそうなんですけれども、それ以上にですわね。――その、ありがとうございました」
「おやおやぁ。何があったのかちゃんとわかっていたのかい?」
 全体的にくたびれた様子ではありながらも、おどけて大仰に驚いたふりをしながらスロウスが尋ねると、フルーリーは申し訳なさそうに首を振った。
「いえ――皆目」
 すると、スロウスもいつもの疲れ交じりの真顔に戻って、
「だろうね」
 とうなずいた。うなずいたのは理解を示すためでもあり、顎を上げた時に、フローリーに話すことを促すためでもあった。
「少なくとも、私が抱きしめておかなければならない状態にあったということだけは理解できましたので」
「なるほどねぇ」
 それは、スロウスにとって納得のいく答えであったし、彼女の頭の回転の速さを改めて感じさせられていた。
 そう。
 今が朝なら何もフルーリーは床に座り込んだままスロウスに抱き留められ続けている必要などなく、普通にベッドの中で寝ていただろうし、そのような双方にとって快適とは言いずらい態勢を取り続ける必要もない。
 だとすれば、あったのだ。
 そうする必要性が。という結論に、意識を取り戻したばかりの彼女が自然と行き着いたことになるからだ。
「――なにがあったんでしょうか?」
 スロウスの瞳をまっすぐに見つめフルーリーは尋ねた。
「やれやれ。それをあたしに尋ねるのかい?」
「スロウス――、あなたしかいません」
 フルーリーの答えは完結明瞭だった。
 たった今しがたまでスロウスに看病を受けていたらしいことはわかっているし、彼女が自分の意識を呼び覚ましてくれたことも、どこか夢が交わったようなあいまいな記憶ではあったが、わかっていた。
 どこかこうなるだろうことを予見していたとはいえ、実際その目を見るとため息の一つも付きたくなる。――いや、スロウスは実際にため息をついた。
 これまでもさんざん我慢してきたのだ。
「一時間だよ」
「一時間?」
「あんたが意識を取り戻すまでの時間さね」
 そう一時間だ。
 一時間もの間、懸命に励まし、背中を撫で続けた。
 必要性と不必要性の問題から、励ます声も撫でることも続けなくてはならず、その合間に疲れた腕を休めることも、厄介者であり厄介事そのものであるフルーリーを押し付けられた自身を俯瞰的に想像して、実感して、思わずつきそうになるため息をつくこともできなかった。
「それは――」
 申し訳ないことをしましたと続けようとしたフルーリーではあったが、スロウスが彼女の肩をたたいて緩やかに首を振った。
「さっきの言葉でそれは十分だよ。むしろこっちが迷惑をかけたわけだしねぇ」
 そう言われては、フルーリーにしても無言でうなずくことしかできなかった。
「それはそうと、一時間だ。一時間も意識を失わせた出来事だ。
 あんたにはそれを聞く覚悟があるかい?」
 フルーリーは迷いなくまっすぐにうなずいた。
「――はぁ……。なら、医者として先に忠告させてもらうがね?意識をちゃんと保つんだよ?」

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