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極小の中にあふれる無限25

 それはフルーリーにとって初めての衝撃だった。
 まるで、吐き出された息そのものに神経を這わせて巧みに操っているかのように、体温に近い熱さをもったそれが、自らの耳たぶを、孕んだ湿度でもってなめ上げたかのような――不快感の勝るその感触を受けて、全身が粟立った。
 そう感じたと思った時にはすでに自らの腕は、グリードによって受け止められていた。
 まるでそれは予見されていたかのように。
 グリードの頬をはたこうとしたフルーリーの腕の進路上にお待ちしておりましたとばかりに伸ばしてあった彼の腕が、まるで蜘蛛の巣のようにからめとっていた。
「――ずいぶん積極的じゃないか」
 今度はフルーリーの視界に自分の唇を見せつけるようにしてそう呟いたとき、フルーリーは意識させられていた。
 きっとそれは、予告であり宣言なのだ――と。
 ゆっくりと自分の左目に彼の右目が近づいてくるのがわかる。
 突き飛ばしたい――のにできない。
 拒絶したい――のにできない。
 ならば意識を断って――、なんて都合よく気絶できるわけもない。
 たとえできてもそもそも覚えていないからと言って何事もなかったことにはならない。たとえ何事も起こらなかったとしても、疑心暗鬼に苛まれるかもしれない。
 せめて今こうして。
 見ていることだけでも拒絶したい――そう思う本能が、何の解決にもならないと分かっていながら彼女に瞼で涙を押し出させた。
 自ら作り出した闇の中、フルーリーは後悔し、混乱しないように意識を保つことに苦労させられていた。
 本当は混乱した方がよかったのかもしれない。
 混乱してあられもなく悲鳴を上げて、助けを求めて叫べばよかったのかもしれない。
 しかし、そういった思考の放棄をフルーリーは持って生まれた気質が、王家に生まれたその矜持が拒んだのだ。
 この期に及んで何を――と自嘲しながら泣きたくなったが、それでもそれが自分の本心だった。
 その本心があるからこそ自分なのだと、そう理解していたし、理解する一方で愚かだとも思った。
 もっとうまいこと生きられたらいいのにと、自分の不器用さを情けなく思いながら、誇らしくも思った。
 暗闇の中で近づいてくる体温を感じる。
 浮かされたような熱が産毛を撫でる。
 せめてファーストキスは好きな人に捧げたかった――それが誰だということはまだ決まってはいなかったけれど。
 それでも、けれども。
 それはグラトニーではなかったはずなのだ。
 半分とはいえ、自分と同じ血を引くこの男ではなかったはずなのだ。
 半分という歪さゆえに、恵まれ、疎まれ、憐れまれたからこそ、捻じれた立ち位置を軸にしたズレた世界で成長してきたこの男のはずではなかったのだ。
 出自や経緯や過程――そして、家庭に思うところはあっても、だからと言って目の前の男の今のありようを受け止められるだけの余裕はフルーリーには、少なくとも今はまだなかった。
 ――べちゃり……。
 そんな音が聞こえた。
 悍ましさを想起させるその音が――。
 フルーリーを助けた。
「なんだ、――これは……」
 そう呟くうちにもう一度それは音を立てた。
 床に落ちたのだ。
 それはフルーリーたちにとっては、先ほどの状況と同じで。
 違うのは――。
「何のマネだい?エンヴィー??」
 それを投げつけたのがエンヴィーだったということで。
 まるで、子供が悍ましさに立ち向かうときにその手に石を握りしめて、投げつけるように。
 エンヴィーはグリードから右の手に隠し持つようにしていたフルーリーの片目の複製を投げつけていた。
「――ダメ……」
 息を荒げ、涙を浮かべて。
「ダメ、それは……だめ」
 エンヴィーは懸命に戦っていた。
「ダメなの――そういうのはダメ――だって……」
 目の前のグリードに対する恐怖と。
「無理矢理――うぅううぅぅぅぅ……」
 なにより――、
「ボク、間違って――?」
 自身のエンヴィーという生き方と。
 エンヴィーの様子に最も衝撃を受けていたのは、彼自身だったかもしれないが、それ以外で一番驚いていたのは、グラトニーだった。
 あれだけ――、人のフリをすることでさえ満足にできなかったエンヴィーが、人としての感性に目覚めようとしていた。
 それは至極――喜ばしい。
 が――、
「そうかい――」
 今と、相手と、
「おとなしく壊れてればいいんだよぉああっ?!」
 状況が悪かった。
 弟のようだといつも思っていた。
 今も思っている。
 ――でも、だけど。
 こうとなったら動けない自分がいる――。
「ざっけんなてめぇくそがっ?!何調子付いてんだぐるぁぁあんっ?!!」
 いくつになって変わらない。
 植えこまれたトラウマが身を縛る。
 見た目とは裏腹が容易に、安易に、容赦なくキレてぶちまけるグリードを目にするたび、耳にするたび、身に受けるたび、思い知らされてきた数多の痛みが、傷みが、悼みが――縛りあげるのだ。
 エンヴィーの鳩尾を容赦なくつま先で蹴り上げると、小さなその体はなすすべもなく宙へとその身を躍らされ、吐き出させられた胃液には早くも血が混じっていた。
 本来であればそのまま踵を腹部めがけて、床に縫い付けんとばかりに振り下ろすところではあるのだが、そんなことをすれば死んでしまうことをよくわかっているグリードは、だから落下するエンヴィーの太ももへと足を踏み下ろした。
 鈍い音が響くと、エンヴィーの声から苦痛のうめきが漏れた。
 何度も何度も続けて、先ほど自身で踏み付けた部分を中心に、グリードの蹴りが容赦なく見舞われる。
 けれども、エンヴィーは――エンヴィーの瞳には光が宿っていた。
 折られた心をなお踏みにじられ続けた、いつもの光を失ったかのようなよどんだ瞳をしていなかった。
 理不尽を理不尽だと泣く、一人の子供がそこにはいた。
 できぬ抵抗を嘆く、けれども助けを呼ぶこともできない子供が。
 グラトニーの胸を何かが叩いた。
 叩いて、叩いて、叩き続けた。
 それが鼓動だと気が付いた時には、グラトニーの体は宙を舞っていた。
 ――飛びかかり、無様に蹴り返されていた。
 ガチガチと歯を鳴らしながら、それでも今ある光景を目にして、ざまあみろ――と、そう思わずにはいられなかった。
 なぜなら。
 わずかとはいえ、この時ばかりは、エンヴィーに奮われる暴力を止めることができたのだから。

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