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極小の中にあふれる無限58

「あ――」
 それはふと目が合った時にエンヴィーの口からこぼれてしまったような声だった。
 どうかしたのかしら?と、気になって一度は気付かなかったふりをしたフルーリーではあったが、視線を来た道を引き返すようにして戻し、エンヴィーへと見つめたときには、すでに彼は何事もなかったということを強調するように、顔を背けていた。
「――――」
 ――気まずいんですわね……きっと――
 なにしろ、出会いが出会いだったのだ。
 今でもあの時エンヴィーが口にした、「殺してやるから」という言葉を思い出すと、身体の底から震えがくる。
 そんな風に、命じるぐらいには、脅すぐらいには、見下していた相手が、自分のことをいやな顔一つせず、看病してくれているのだ。甲斐甲斐しいとさえいってもいいくらいである。――少なくとも、表面上は。
 さすがのエンヴィーも、こんな風に接してくれるフルーリーの姿を、「当然」のものとは思えなかったらしく、フルーリーが彼のお世話をしようとすると、申し訳なさそうに視線をさまよわせ続けた。
 フルーリーが近づく時には彼女と目を合わせないように明後日の方向を見ているくせに、いざ彼女が看病を始めると、気が付けばその多少なりにもこなれてきた手つきや、その真剣な表情に視線を注いでいる自分がいることに、彼女がその視線に気が付きエンヴィーへと視線を転じたときに気づかされる――といったことを繰り返していた。
 そのたびフルーリーはこちらを安心させようとしているのか、にっこりと笑うのだ。
 そうすると、ますますエンヴィーは目のやり場に困ってしまう。
 そんな自分が、よくわからなくなってきていた。
 殺人などを繰り返してきたとはいえ、彼が決めたターゲットを命を奪う動く的ぐらいにしか感じてこなかったとはいえ、負傷した自分を、脅されていた側が看病してくれるだなんて、そんな現実を受け入れることが難しかった。――それぐらいには、彼は年相応に純粋だった。
 なにしろ、彼が考えていたのは、「今の僕なら、殺そうと思えば簡単に殺せるぐらい弱い存在なのに」という理屈であり、フルーリーにしてみれば、エンヴィー自身が仕掛けた脅迫を跳ね返すための絶好のチャンスではないのか。
 なのに、彼女は看病をしてくれている。
 それが受け入れられない。
 それを当然だとも思えない。
 弱いものが強いものに従い、敬い、世話をするのは当然の義務だ――などといった勘違いを抱くこともなく、弱肉強食の世界で生きてきたエンヴィーには困惑ばかりが募った。
 もちろん、彼だって。
 ――おそらくは、フルーリーはあの時の脅迫を、すでに自力で覆したのだろうということは理解していたし、なにより自分自身が、殺そうと思えばいつでも殺せるような彼女を、殺そうとは思わなくなっていた。
 それこそ敬愛――、いや。
 文字通り「愛」するグラトニーが、未遂とはいえ自決に至った経緯は、身動きが取れなかったとはいえ、その一部始終を見ていたのだから知っている。
 それでも、フルーリーに対する憤りのようなものは、不思議なぐらいに感じなかった。
――だって、お姫様の気持ち……、わかるんだ――
 親を奪われた者同士。
 それは、グラトニーも含めて。
 エンヴィーには、すぐにそれを成すだけの力があったし、「先生」がその力の使い方を教えてもくれていた。
 もっともこれは正しくは、エンヴィーが先生と呼んでいたズヤールが、フィーリング的に彼に説明することで、漫然とやってみたらできた――だけのことではあるのだが(なにしろ、ズヤール自身にはナノマシンを操った経験などないのだから)、それでもエンヴィーには人に教わった数少ない経験の一つだった。
 自分は特別なのだと理解していた――けれど、フルーリーはそんな力を持っているわけではないようだし、本能的な脅威も感じない。
 最初にあったときも、純粋にその端正な顔立ちと、美しいサンライズに見とれてしまい、咄嗟にグラトニーを取られてしまう――もっとも、彼のものでもないが――との危機感の方が先に立ったぐらいである。
 だから、スロウスの口から、ヴァージョンは違うとはいえ、同じナノマシンを使役している、いわば兄弟みたいな存在なのだと聞かされたときは、驚いたものだ。
 その一方で、どことなくうれしくもあった。
 グラトニーとのつながりが、より補強されたように感じられていたし、血縁関係はなくても、同じ系列のナノマシンを身に宿す兄弟たちが、こんなにもいたんだと、独りぼっちじゃあないんだと知ることができたのだから。
 だから、余計にどんな顔をしたらいいのか、何を伝えたらいいのか、わからなかった。
 無意識に――、気が付いたら傷口を手でなぞっていた。
 そのとき頭に思い浮かべていたのは、思い出していたのは、包帯を変えてくれていたフルーリーの横顔だった。
 そんなとき、見るともなく開いていた目にフルーリーの金の瞳が過って、そのわずかな時間に焦点が合って、思わず羞恥の声を上げてしまっていた。
 すると、その声を聴き留めてしまったらしいフルーリーは、エンヴィーへと視線を戻してしまった。いち早くそうしようとした彼女の首の――、その筋肉の動きから読み取って、思わず顔を背けてしまった。
 ――けれども、このままでいいわけもない。
 熱がこみ上げてくる。
 何を言いたいのかもわからないし、言わなきゃいけないのかもわからないけれど、エンヴィーの口は、心は、何かを伝えたがっていた。
 喉の奥で痛痒を伴うように、思いというしこりがざりざりと摩擦音を立てて、こすりあっている。
 口を拓けと。
 思いよ爆ぜろと。
「――う……」
 ちらちらと、視線をフルーリーへと送っては引っ込めてしまう。
 その様子にフルーリーは、どこか怪訝な思いを抱いてしまうわけだが、エンヴィー自身にはそんな感情を抱かせているなどと考えるような心の余裕はなかった。
 いっそ、このままフルーリーを見ることなく、この何かを吐き出してしまおうか。
 そう思った時、
「――ちゃんと目を見て――、そう」
 といった懐かしい声を聴いたような気がした。
 あ――、これ……。
「ありがとう」
 知ってる……。
 お母さんが、けがを消毒して、絆創膏を張ってくれた先生に「お礼」をいうように、照れるボクの背中を押してくれた、あの時の記憶――。
 気が付けば、胸のつかえは取れていた。
 熱も少し収まってくれたような気もする。
 なにより、視線の先に、サンライズが大きく開かれた目の真ん中で輝いていた。
「い、いえ――こちらこそ……」
 予想もしなかったエンヴィーのお礼の言葉に、返す言葉が思いつかず、ズレたことを言ってしまったが、それぐらいにはフルーリーにとっても衝撃的で――、感動的であった。
「……それと……、ごめんなさい――でした?」
 言葉に自信がなさげに付け足した結果、これまた変な言葉になってしまったエンヴィーであったが、フルーリーにはそれを窘めるような気持ちはなかった。
 ただ、うれしくて。
 ただただ、うれしくて。
 うれしさであふれかえる心の中に、そのような雑念は混ざりこむ余地がなかったのだ。

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