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極小の中にあふれる無限60

 エンヴィーは泣いていた。
 最初は泣いていることにも気が付いていなかったらしく、落ちたしずくの後を不思議そうに眺め、つと天井を見上げるなど、そのしぐさはどこか小鳥を思わせる愛嬌さがあった。
 どうやら自分の頬をしずくが伝っていることに気が付いたエンヴィーは、そのあふれ出てくる涙を、両手の甲で拭うその様子は、まるで猫のようで。
 目を大きく見開いて、不思議そうに開いた掌に落ちてははじかれるその水滴を見続けて。
 一瞬にして顔をくしゃくしゃにゆがめると、布団を掻き抱くようにして、声を上げて泣き始めた。
 フルーリーはそんなエンヴィーを見ながら、静かに病室を後にした。
 一人で泣かせてあげようと思った――わけではない。
 そんなことを考える余裕は彼女になかった。
 こみ上げてくるものを、必死に飲み込み続けた。
 近くの女性用のレストルームまでせいぜいが20歩程度の距離だったが、彼女はそこに辿り着くまでに40歩必要だった。
 おまけに、普通の二歩分進む時間を使って、ようやく一歩。
 けれども、懸命だった。
 こんな姿を誰かに見られるわけにもいかない。
 見られればどうしたのかと驚き、尋ねられることだろう。
 だから、一刻も早く。
 けれども、遅々として足が進まない。
 こみ上げる涙も、嗚咽も、吐き気も、押し殺して、噛み殺して、飲み込み続けて、ようやくレストルームに辿り着いてみれば、それだけで一瞬気が抜けてしまい、嘔吐物が喉元までせりあがってきた。
 かといってここでそれを吐き出すわけにもいかない。
 この際、王家だの――それも元だの、そういった話ではなく、フルーリー自身の自意識と美意識の問題であった。
 ひりつく喉に、吐き出る息の匂いに、涙がこみ上げてくる。
 幸いにして中は無人だった。
 一度空気で栓をするように喉を鳴らして、個室のカギをするなり、倒れこむように便器の中へと吐瀉物を吐き出した。
 胃に残っていた昼食もなくなり、苦い胃液もでなくなり、それでもあえぐようにせり上げる胃が、吐くという行為を繰り返す。
 涙があふれる。
 記憶が蘇る。
 ストロボで瞬間瞬間を切り取ったように演出するように、思い出したくない記憶ばかりを鮮明に描き出されるたび、吐く物ももう残っていないのに、胃がせりあがり続ける。
 それは――、母の記憶。
 右目があったころの思い出――。
 思い出したくもない思いで。
 右目を失ったあの時の痛み。
 悲しみ。
 怒り。
 激痛。
 もはやただのガラス玉にも等しい己の、何も見えることのない、脳へ映し出すこともない右の目が、それでも眼底疲労でも起こしたかのように、頭がカチ割れそうなほどにずきずきと痛む。
 記憶の回路がショートしたかのような、激しい片頭痛となり、それでも嘔吐は止まらない。
 吐き出すたび、せりあがるたび、脳を直接殴りつけられたような、何かが破裂したかのような衝撃を錯覚するほどの頭痛が響く。
 痛い――、痛い……、痛いぃ――。
 声にならない声を上げて、フルーリーは己の過去と向き合わされる。
 もしかしたら、この引き金になったのは、スロウスが語った「フルーリー黒幕説」のせいなのかもしれない。それ以前に、フルーリー自らが不用意に右目について語ったせいなのかもしれない。
 あの時でてきたフルーリーの過去に迫る言葉が、彼女のこれまで封をし続けてきた記憶に――、ともすればどこか他人事のようにとらえることで、何とか自我を護ってきた、そこまでしなければならなかったあの忌まわしい記憶を呼び覚ます。

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